2013年12月に京都府で発生した市民マラソン大会での事故に関するものと思われます。この事故では、参加者の柘植彩さん(当時46歳)がゴールまで約1kmの地点で倒れ、救護車に搭載されていたAED(自動体外式除細動器)が使用されませんでした。その結果、彩さんは心停止から約45分後に心拍が再開しましたが、脳に酸素が供給されない時間が長く、意識障害が残りました。
AEDの使用に対するためらい
AED(自動体外式除細動器)は心停止の際に電気ショックを与え、心臓の正常なリズムを取り戻すための重要な機器ですが、日本では使用をためらうケースが少なくありません。その主な理由は以下の通りです。
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女性や子どもへの使用への抵抗
女性の衣服をはだける必要があるため、周囲の視線やセクハラと誤解されることを恐れて使用をためらうケースがあります。特に公共の場では、この問題が深刻です。 -
誤作動や責任への不安
「間違って使ったらどうしよう」「AEDを使って相手が助からなかったら責任を問われるのではないか」といった心理的な抵抗があり、使用をためらうことがあります。 -
救命知識の不足
「AEDを使ったことがない」「どのタイミングで使えばいいかわからない」といった知識不足が、使用の遅れや見送りにつながります。
改善策と対策
AEDの使用をためらわずに行うためには、社会全体で意識を変える必要があります。具体的な改善策として、以下が考えられます。
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「ためらわずに使う」文化の普及
AEDは心停止の疑いがある場合、積極的に使うことが大切です。仮に心停止でなくても、AEDは自動的に電気ショックが必要かどうかを判断するため、「誤って使ってしまう」リスクはありません。 -
プライバシー保護のための工夫
公共の場でのAED使用時に女性の衣服を露出させることへの抵抗をなくすため、目隠し用のシートを備えたAEDキットを用意したり、周囲の人が協力して対応することが求められます。 -
法律による保護の周知
日本では、「善意の救護行為」によって生じた結果について、責任を問われないという考え方(善きサマリア人の法)が広まりつつあります。AEDを使って助けようとした人が責任を問われないことを周知することが重要です。
救命教育の普及
AEDをためらわずに使用するためには、定期的な救命講習の受講が不可欠です。学校や職場、地域社会で以下の取り組みを進めることが求められます。
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小学校・中学校での心肺蘇生(CPR)とAED教育の義務化
学生のうちからAEDの使い方を学ぶことで、大人になっても抵抗なく使用できるようになります。海外では、学校教育の一環として救命講習を義務化している国もあります。 -
企業や自治体の講習会の拡充
消防署や自治体が主催する救命講習を増やし、より多くの人がAEDの使い方を学ぶ機会を作ることが重要です。企業でも、社員研修の一環としてAED講習を取り入れるべきです。 -
身近な場所にAEDを設置し、使い方を周知する
駅やショッピングモール、スポーツ施設、学校などにAEDが設置されていますが、「どこにあるかわからない」「使い方がわからない」という人も多いです。AEDの設置場所を明示し、実際に触れて学べる機会を増やすことが求められます。
AEDの普及率は高まっているものの、実際の使用率は低いのが現状です。
「救命に迷いは不要」という意識を社会全体で醸成し、誰もが躊躇なくAEDを使える環境を作ることが命を救うカギとなります。
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